『大栗先生の超弦理論入門』を読む。
なんとワクワクする本なんでしょう。
- 作者: 大栗博司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/08/21
- メディア: 新書
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この本は、超弦理論の始まりから今現在進行中の最先端の内容まで、本格的かつ平易な読みやすさで書かれた最高の1冊の一つです。
そしてこの中に書かれた内容は、私が大学、大学院で学び、そして研究した9年間の期間とも多くの部分で被っており、私の(ちょっと遅れた)青春そのものでもあります。
本書で登場する日本人の研究者の方々にも何らかの場面でお世話になりました。また今回の弦理論第二次革命であるM理論は、私が学部生のころにチラホラ聞こえてきた内容、マルダセナのAdS/CFT対応とホログラフィーは修士論文のテーマ、そして博士課程でDブレーンの研究をしておりました。(大栗先生とお会いできる機会がなかったのが残念です。)
博士課程を終え自分自身の才能の限界を悟り、ようやく娑婆の世界に戻ることができましたが、今でもこうして大栗先生の本を読ませてもらうとワクワクした気持が収まらず、もう一度物理やりたい気持ちが沸々と湧いてきます。(やらないけど)
弦理論(というか一般的に認知されているのは”ひも理論”)に関する啓蒙書は数多くあるものの、本書の最大の特徴の1つは超弦理論が空間の次元に関する予言について、その導出方法を真っ向勝負で書いていることです。
実際の弦理論の教科書に出てくる導出方法と同じ方法で、光子の質量がゼロになるという要請から、オイラーの公式を使えば、ほら超弦理論の次元は9次元だと!!
これ、一般人に理解できるのでしょうか??でも、大栗先生のツイッターをフォローしていると、今回の本に関する感想を幾つか見ることができ、中でもオイラーの公式に関して感銘を受けた人はかなり多いようです。喩えるならば、『ピカソ』のような難しい絵でも、その人が心を開いた時、その絵の持つ真の奥深さ、深遠さを感じずに入られない、そんな心境なのでしょうか。
そしてもう一つの面白い試みが、「ゲージ対称性」を金融市場の考え方に絡めて説明している点です。金融市場では、金利と為替が密接に関係しており、どこかの国が金利を上げれば、そこから収益機会を狙う裁定取引屋(アービトラージャー)が瞬時にポジションを動かし、為替を変動させ、収益機会がなくなれば売買は止まります。それと同じ現象がまさに電磁誘導だと。
私は今までこのような考え方を認識していませんでしたが、これ結構すごいこと言っているような気がします。金融市場にはアービトラージャーという僅かな収益機会を狙う人(アルゴリズム)が存在し、常に市場を監視していますが、これと同じことを電場や磁場、そして真空にいるあらゆる場がやっているのだと。
恥ずかしながら私は、ゲージ対称性をもう少し静的なものとして捉え、理論はゲージ対称性を保つものだぐらいに考えていました。しかし、現実の宇宙はもっと動的なもので、ちょっとでもその対称性が破れるような力が働くと、真空からあらゆるエネルギーを奪おうとする場が発生し、そのエネルギーを持ち去り、そしてまた宇宙はゲージ対称性のある世界にもどるということを繰り返しているのだということがわかりました。まさに宇宙そのものが、一定のルールのもとでエネルギーを追い求める資本主義といったところでしょうか(遠い目)。
そして圧巻の「第一次弦理論革命」と「第二次弦理論革命」の解説。喩えるなら、歴史小説で次々と最強の戦国武将があらわれ、宇宙という強大な的に対して新しい策略を次々と編み出し、一つ一つ城を攻め落としているような、そんなスリリングな内容となっています。(ってこの喩えがまったく分からないか。)
本書の中でも私が非常に感銘を受けたのが、「クォーク・グルーオン・プラズマ」に関する予言がホログラフィー原理から導かれ、実験結果ともよく合うとのことでした。私が大学院にいた頃は、弦理論に関する研究が実験で確かめられるようになるのは100年後、あるいはもっと先だろうなどと言われていました。もちろん今回の実験は弦理論そのものの検証ではありませんが、それでも弦理論から導き出されたホログラフィーという考え方が、現実の世界で確かめられるとは全く想像していませんでした。この話を初めて聞いた時、私は人間の凄さを染み染みと感じました。
そして最後の「時間は幻想か」の章からの1文。
私自身、ハーバード大学のバッファとの共同研究などを通じて、超弦理論から宇宙論模型にどのような制限がつくかという研究を進めています。
なんと大胆な研究をなされているのでしょう。この話を聞いて、初めて研究の方向性にこんなものがあるのだと気が付きました。どんなふうに研究をするのか見当もつきませんが、ここからまた新しい考え方が生まれてくるのを楽しみにしたいと思います。
以上、ただひたすら個人的な感想を書き並べましたが、恐らくわからない人には全くわからない内容となっている気がします。でも個人的なことを書くのがブログだし、まあいいでしょう。
もし、この話を聞いて面白いと思った人がいたら是非読んでみて下さい。特に、子供がこういう話に興味を持っているなら早い段階で読ませてあげて下さい。
でも1点だけ注意事項、もし子供が研究者を目指すと言ったら止めてあげて下さい。
3度ほど止めてあげて下さい。
それでも子供がやると言ったら、その時は覚悟を持って応援してあげて下さい。
きっとそんな人(のさらにごく一部)が新しい物理学を切り開いていくのでしょう。